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先日最終回を迎えた鼎談ですが、
公演を終え、あらためて話したいことが増えてうずうずした三演出家が再び、
ぽつぽつと話を始めました。
せっかくなので、番外編として公開したいと思います。
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『ゼウスとワルツ!』番外編~私達はこうやって神々とワルツした。~
ジャコウ : 明けましておめでとうございます。先日何とか「パンドラ3」が無事に幕を降ろした訳ですが、想像以上にこの企画は色んな意義をはらんでいたと思います。是非ともこの地域で、この灯火を灯し続けていきたいなあと。そのためには企画及び個々の作品で何が達成でき、何が課題として残ったかを洗いざらい炙り出しておくべきだと考えます。で、自分の作品についてですが、初めてのダンス作品で、かつギリシャ神話。振付という作業の試行錯誤と神話の膨大な水脈の汲み取りは本当に大変で、正直やりたかったことの3分の1も達成できなかったという気がします。片山君の話を聴いてびびったよ。読んでるテキストの分量に。僕なんか、「仕事と日」の、それも「5時代の説話」というほんの一部分しか消化できなかった。幸い三重での再演が決まっているので、次はせめて「仕事と日」全編と「神統記」くらいは盛り込みたいと思っています。
双身機関『パンドラダンス』写真/構久夫
にへい : よこしまブロッコリーとしては、面白い作品を手に入れたなって思ってます。より正確に言えば、作品というより、世界設定とか世界観と言った方がいいかもしれませんね。よこしまブロッコリーが上演したのは、3つのエピソードが舞台上で同時進行するという作品でしたが、その時々の自分たちが感じていること、関心があることを反映させたエピソードに入れ換えていくことで、今後いろいろなバリエーションを作っていける可能性があると感じているんです。例えば、中心になるパンドラのエピソードを残して、小学生のエピソードとシニア世代のエピソードに入れ換えると、また違う人生観みたいなものが浮び上がると思うのですね。つまり、いろんな新しいエピソードを取り込んでいっても世界観みたいなものは壊れないタイプの作品というか。なので、自分たちが作品をどう発展させていけるかも含めて、またぜひやってみたいですね。
よこしまブロッコリー『また何度目かの世界の終わり』写真/構久夫
片山 : 皆様本当にありがとうございました。三者それぞれに違うパンドラの箱、とても楽しく過ごさせて頂きました。さて作品前の資料集めですが、僕は確かに数を読んだのですが、それは本当に「ギリシャ神話」をどう扱えば良いのか解らなくてですね。神話自体が粗筋の塊で、会話や、神の言葉がほとんど出てこないので、どうやって台本に起こそうかなと。結局はギリシャ悲劇や詩、哲学者や諺などから言葉を貰いました。にへいさんは、それでも僕らの中で一番ストーリーを書いているのですがそこらへんは何を参考にしたとかありますか?
にへい : そうですね、資料としてはいろいろ読んだのですが、影響を受けたものを一つあげると、この1、2年ずっと読み続けている塩野七生さんの「ローマ人の物語」ですかね。ローマを語るときにギリシャは欠かせないですから。ギリシャの人々ってどんな人達だったのかという部分で参考になりました。ですが、ギリシャ神話も含めてパンドラの箱以外は具体的にこの話を取り上げるということではなくて、読んだものを一度自分のフィルターを通して、感じたことをシーンを描く際の下敷きのひとつとして取り込んでいきました。例えば、延々と言葉を重ねていくが出口のなさ=議論に終始してしまいがちな古代ギリシャ人達とかそういう取り込み方。あと、ギリシャ神話からは、女子をなんとかものにしようという様はゼウスとか(笑)。それと、現代劇を選択しているので、現代でも有り得るってところには気をつけながらだったですね。
ジャコウ : 話を聴いていて面白いなって感じたのは、エピソード入れ替えても同じ作品として成立するっていう手応えですね。ここ数年にへいさんはどんどん演出家としての比重を高めているなって印象をもってましたが、それでも書かれた戯曲は一つの世界として完結してたと思うんです。実際の舞台を観ても、随分ライブ感が増しているなって感じました。どうでしょう、入れ替えのシニアの部分で七ツ寺市民劇団のおじさんたちを使ってみませんか?最強ですよ(笑)。ま、冗談(?)はさておき、劇団としても新たな可能性を掴む話だと思うんですよね。なぜかというと、アウトリーチのツールとして使えると思うんです。市内の小学校へ出かけてワンシーンを創ってもらい一緒に上演するとか、場合によっては他都市でのレジデンスも充分ありうるかも知れない。どうですか、企画しましょうか?
片山 : いいですね、最初は「いかにギリシャ神話がよく解らないか」から始まって、最終的に作品が構築されていくとか。短期のレジデンスにとても有効な題材だと思いました。ただ、ある程度のギリシャ神話の知識が、観客側にも必要だと感じたので、次は日本神話だともう少し間口が広がるのかなとも思いました。
片山雄一出演シーン
ジャコウ : いや、日本神話でもそんなに変わんないですよ。『ハッピーアイスクリーム』を創ってた時の
経験から言って。僕が面白いなって思ったのはそうじゃなくて、ギリシャ神話のエッセイを汲み取りつつ、それを変換した上で役者たちに提示したにへいさんの作業です。アウトリーチやレジデンスで「ギリシャ神話ってどう?」っていきなり切り出しても無理ですよ。1年住み込むならともかく(笑)。今回の3作品はやはり、集団として長い時間を共有したからこそ産まれたものではないでしょうか。
片山 : や、僕は1ヶ月のレジデンスで制作しましたよ(笑)
とは言ってもその前のオーディションから始まって、やはりその「変換作業」に一番苦労したのです。そういった意味では、何度も試演を繰り返した双身機関と、集団性が押し出されたよこしまブロッコリーにはとても羨ましいなという思いと、早くトライフルも次のステップに行かなければなという思いの両方があります。そうか、ジャコウさん日本神話は以前からやってますもんね。ギリシャ神話なのに天岩戸とか出て来るし、厳密に精査するともう訳わからない。双身機関の最後のシーンの手紙、独白ですか、あれは神話世界から始まったイメージが最終的にとても個人的な世界観に集約されていくのですが、その道程がとても素晴らしかった。訳が分からない良く分からないのに素晴らしい面白いという経験は、ぜひ子どもたちや学生と一緒に共有したいですね。
トライフル『神々が存在するのかしないのか、我々には知りようもない』写真/構久夫
にへい : 『また何度目かの世界の終わり』は、ジャコウさんの仰る通り、いろいろな可能性は試してみたいですね。作品がいろんな場所や世代とつながるツールにもなるなんて、こんな素敵なことはないですよね!集団に関していくと、何をどう共有するかに付きますよね。悩みはつきません(笑)。でも、今回は三団体三様の空気が上手く作品に反映されていたように僕も思います。そうそう、片山君の言う通り、『パンドラダンス』の手紙への過程が好いですよね。それと終演後の静寂。作品の余韻を受けて静かに振動している空気、そこにいるからこそ体感出来る空気でした。『神々が存在するのかしないのか、我々には知りようもない』は密度が強く印象に残っています。僕は密度って濃ければいいってものではなくて、作品によって、それこそシーンによって適切な濃度があると思っていて、そのさじ加減がとても魅力的でした。どちらの作品も僕個人としては、自分にないものに触れられた、そう感じています。同じ舞台だからこそより感じられる。他者がいるからこそ自分の姿が見えるというか。だから多様であるってとても大事だと思っていて。本当にこういう企画だからこその楽しみですよね。
にへいたかひろ出演シーン
ジャコウ : 公演前後はゆっくり感想話し合う時間がなかったので、今こうしてじっくり聴けて良かったです。終演後の静寂ってコメントはうれしいですね。やはり作品創るときに舞台でしか出来ないってことを相当意識してますから。お金払って、移動に時間使って観に来て下さるお客さんにテレビや映画と同じもの観せるのは演劇の自殺行為ですもん。手紙(独白?)が評価されたのもうれしいです。創ってて、自分でも強引だなあって思っ
てましたから(笑)。何がどうつながってるかなんて、自分でもいまだに判ってません(笑)。ギリシャと日本の神話を扱って一番違ったのは僕が出てるか出てないか(笑)。いや、ダンスだからってこともありますが、ギリシャ神話は自分が出ないとまとまらないって意識がどこかにあった気がします。逆に日本神話は自分が出ずに1つの世界を完結させたかった。これは個人的な距離感だとは思うのですがね。
ジャコウネズミのパパ出演シーン
片山 : 個々の作品はもちろんですが、同じ題材でそれぞれが作品をつくり、お互いに影響を与えあう今回の様な企画が、今後も継続して行くのかどうかというのがこれからの課題だと思うのです。僕としてはもっと若い世代の表現者が、これからどんどん参加して来て欲しいですね。その成果は必ず自分達に帰って来るものです。
ジャコウ : 継続が課題、というのは全くそのとおりだと思います。それぞれの作品はもちろん面白かったわけですが、繰り返し上演することでどんどん新しい展開が出てくると思います。双身は早速秋に再演しますが、よこしまにもさっき話に出たレジデンスを含めた発展形を実現させてほしいです。トライフルも片山君が言ったように、今後集団性をいかに構築するかの上で再演はあるべきです。協力は惜しみませんよ〜。そしてもうひとつ、企画の継続も片山君と同意見です。電光石火とかオートバイとかオレンヂスタなど、独自の表現を築きつつある若いカンパニーが出てきていますからチャンスの時期といえます。劇団が次々できるけど5年続かない、30歳を超えられない、という名古屋の悪い状況を変えるためにも。そのために僕が裏方に徹してでも「3」企画を続けたいと思いますね。
にへい : そうですね、お互いに影響し合う、意識し合う、そういう状況って大切ですよね。そして継続していくなかで、世代とか表現の枠組みとかを越えていけるといいですよね。それぞれの世代だからこそのアイデアやノウハウに触れることでどんどん活性化していけると思うのです。どうアピールするかって問題はあるのですが、でもまずやっぱり何かが起こってるってのがないと、お客さんも含めてより沢山の人達と繋がっては行けませんからね。常に熱がある状況はこつこつと燃やし続けないと出来ません。もちろん、燃やし続けていきますよ。
では、ジャコウさん、片山君、ありがとうございました。そしてお疲れ様でした。これからもお互いに刺激しあって行きましょうね。よろしくお願いします。
鼎談、終わり
ご一読頂いただき本当にありがとうございました。
また、みなさんと劇場でお会い出来る日を楽しみにしております。
ジャコウネズミのパパ(双身機関)片山雄一(トライフル)にへいたかひろ(よこしまブロッコリー)
12/24 混雑のお知らせ 及び
リピーター券 ¥1000のお知らせ
「パンドラ3」本日、無事幕をあけました。
明日12/24のスペシャルDAY(3団体ままとめてご覧いただける日)は、
おかげさまで、混雑して参りました。
25・26日はまだまだお席に余裕がございます。
また、一度ご入場いただいたお客様、チラシなどでの告知のとおり、
半券をお持ちいただければリピーター券1000で別の日時がご覧いただけます。
お時間ございましたら、ぜひご来場ください。
<プログラム(上演団体と上演順)>
12/24(金) 15:00〜
(1)よこしまブロッコリー
(2)双身機関
(3)トライフル
(4)アフタートーク
※ 19:30前後終了予定
12/25(土) 14:00〜・18:00〜
(1)よこしまブロッコリー
(2)トライフル
およそ2時間で終了予定
12/26(日) 11:00〜・15:00〜
(1)よこしまブロッコリー
(2)双身機関
およそ2時間で終了予定
ご予約はpandora.three★gmail.com(★を@に変えて)
または当ブログ右上の表から。
例によって、双身の稽古を終え、食事を済ませてからの現場入り。部屋に入ったのは通し稽古が終わりかけるタイミングだった。
いきなり最終シーンを観たので、作品の構造を理解するのはままならなかったが、その場の空気が容易ならざることだけは伝わってきた。
ダメ出しを経て、返し稽古の例えばこんなシーン。
空から大量の紙が降ってくる。そこにはギリシャ神話や哲学の、様々な文句が書かれている。それを見つけた3人の男たちが代わる代わる、朗朗と読み上げる。犬は動物であり猫も動物であるから犬は猫であったり、アキレスは永久に亀に追いつけなかったりという有名過ぎる詭弁の数々。
台本は無く、彼らは半ば即興的にそれらの行為を繰り返している。私は片山雄一という表現者のスタンスがどちらかというと劇作家寄りだと思っていたので、これには驚いた。
その後、いくつかのシーンを見させてもらったが、どれも話している内容ではなく、詭弁や繰り言を果てしなく続ける人間の性根を問題としているらしい。これは若い役者が大半を占めるこの稽古場にとってはさぞかし大きなハードルだろう。何しろ台本どころか、ここでは役名すらほとんど与えられていない。役者たちはいちいち、今ここに立ち、訳の判らないことをまくし立てている私は一体誰なんだ、ということを自問し続けないことには一瞬たりとも居られない。当たり前、と思われるかも知れないが、演劇とはそれ位、台本という制度に守られて成り立っている表現なのだ。(一般的にはね。もちろん、今回パンドラ3に参画している集団はそんなことありません)
まぎれもなくこれは、演劇という制度に対する片山雄一の挑戦状だ。
かといって、この現場がいかにも眉をしかめて考え込んでばかりいるかというと全くそんなことはない。片山君のくだらない冗談にはますます磨きがかかっているし、役者たちにも笑顔が絶えることはない。究極には、前述のシーンで紙が降ってくると、最初に発見した男は「あ、神だ!」と叫ぶが、後の二人は「あ、紙だ」と言う。この、「神だ」「紙だ」のやり取りは他のシーンでも行われる。こんな立派なオヤジギャグを飛ばせるとは片山君も年輪を重ねたものだ。このベタなズレはしかし、単に私のようなオヤジを癒すためだけの仕かけでは勿論ない。これはギリシャ神話あるいは悲劇という、高尚だったり深遠だったりする素材を現代の私たちの立ち位置に引きずり込むための周到な準備作業なのだ。
それが証拠に夥しい神、いや紙には時々こんな俗なフレーズも・・・いや、これはさすがに観劇の楽しみを奪うのでやめておこう。
無事にこのハードルをトライフルの面々が越えられるのか、正直なところギリギリの賭けだと思う。しかし、どこにどう転ぼうが観客の皆さんは今まで観たこともないパフォーマンスを目撃するだろう。観劇なんてどうせ道楽なんである。物珍しい、こうした舞台にこそ足を運んで楽しんで頂きたいと率直にお勧めする。
ジャコウネズミのパパ(双身機関代表)
いよいよ演出家鼎談、最終回です。
3演出家は、それぞれの観点からギリシャ神話をどういう形で舞台に乗せるのでしょうか。
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『ゼウスとワルツ!』vol.4~ギリシャ神話の調理法?~
にへい : 片山君との話は、ギリシャ神話から始まって、最後は今度のトライフルの作品の話になったんですけど、双身機関はどういう形でギリシャ神話に取り組んでいますか?先日、稽古見学をさせていただいたとき(稽古場レポート参照)、とても刺激的な作品になりそうな匂いも嗅ぎつつも、抜き稽古だったので、どういう風にシーンが重ねられて行くかとか、僕の妄想の域を出てないので(笑)。ちなみによこしまブロッコリーは現代劇の中に取り込む形ですね。
ジャコウ : そうですね。妄想は描いてる間が一番楽しいと思うので、どうぞ当日まで大切に持ち続けて下さいと言いたい気もしますが(笑)。いやいや、うちは割と神話そのままというか、ヘシオドスの「仕事と日」に出てくる“五時代の説話”を読みつつ、そこから得たインスピレーションで動きを創っています。まあ、それだけでは何だかなあ〜ってことになるので色々他のテキストも混ぜていますけど。
ヘシオドスで面白いのは、神と人間の二つの立場ともう一つ、仲立ちとしての本人の視点が存在してるわけです。で、僕らは一番出来損ないの第五の種族として未だにダラダラ続いてるんじゃないかってのがあって(笑)、一方の神がご先祖様だとすると、ヘシオドスのテキストがうまいこと繋いでくれる気がするんですよね。そんな感じで、いにしえと現代が混在する作品になってるといいなあ〜って、希望的妄想を拡げています(笑)。
にへい : 希望的妄想、いいじゃないですか、どんどん拡げて行きましょう(笑)。話を戻して、そうか、そういう構成になってたんですね。これは先日、双身機関の出演者の櫻井さんにインタビュー(役者インタビューのコーナー参照)したときも感じましたし、今回のタイトルに「パンドラダンス」ってあるように言葉だけじゃなくてダンスでってところが好いですよね。ギリシャ神話をそのまま言葉だけだと耳だけで聞いて終わってしまうかもしれない。ダンスの要素が入ることで、想像しながら観ることが出来ますよね。今、目の前で何が起こっているんだろうって。それこそ、それぞれが思った妄想をどんどん拡げながら観れるというか(笑)。でも、これは僕の妄想かもしれないですけど、タイトルのダンスって意味深ですよね?「パンドラダンス」ジャコウさんの話を聞いたあとで改めて読むとなるほどねって楽しみになってきます。
ジャコウ : うわあ、一気にハードル上がりましたね。失敗できないジャン、これ(笑)。が、が、が、が、が、頑張りまふ。・・ここで「まあ、期待しててよ。ふっ(キラーン)!」って、胸を張るのにいまいち照れるのが僕の悪い癖ですね。いまだに芸名名乗るのに微妙に小声だし(笑)。や、でも仰るとおり、神話のあの時空間は演劇よりもダンスの方がよく具現化できると思ったんですね。もっとも当初構想した時空間とはもちろん少しずつシフトしてる訳ですが。あとはずっと「身体表現としての演劇」を掲げ続けて、基礎訓練も舞踏とかヨガ、武術ばっかりやってる訳です。15年やってて稽古で発声練習したこと一度もない(笑)。だったら貯めこんだスキルを一度思い切り使って作品創ってみたいという集団としての欲求もありました。
にへい : 確かにアフタートークとかで芸名を名乗るとき少し小声ですね(笑)。でも双身機関の身体って、どこか、よこしまブロッコリーの会話劇と共通するところがあると思っています。これは千種セレクションの時も感じたのですが、いろんな演劇があるのですけど、人間の身体に起こることはやっぱり同じというか。そういう目線で、パンドラ3を観てみるのも面白いですよね。
ジャコウ : ぜひ、その目線で観て頂きたいですね。さて、にへいさんのギリシャ神話調理法について、もう少し詳しくお聴きしたいのですが。現代劇に取り込むってのは、まあそうなるんだろうなとは思いますが、取り込み方にも色々あるだろうと思うんです。ストーリーをそれとなく入れてるのか、登場人物の性格とか、あるいはテーマの部分なのか。ネタばれにならない程度でお話頂けるとうれしいです。
にへい : 僕の創作というか、よこしまブロッコリーの作品創りは台本を書くことから始まるので、まずは台本にどう反映させるかを考えました。これはギリシャ神話に限らずですが、神話っていかにして我々が現在に至るかっていう話だと思うんですね。そして、始まりがあれば終わりもある。そして古今東西、宗教も含めて、終末の話にはこと欠きませんよね。普段から執筆の時、日々はたくさんの終わりと始まりを繰り返しながら続いて行くというのを意識しているので、始まりと終わりというのにまず自分がリンクしました。それから、ギリシャ神話に話を絞っていくと、例えばパンドラのエピソードのようなことって、現代においてもいくらでもありますよね。「開けちゃいけないもの」に限っても、大なり小なり、幾らでもあって、知らないうちに開けられていることだってある。目に見える形で、また見えない形で、ギリシャ神話を散りばめて作ってありますね。
ジャコウ : 面白いっ!!今、固唾を呑んだ音聞こえました?(笑)つまりテーマやエピソードのようなものが断片的に、しかも形を変えながらそこここに隠されているって感じでしょうか?何度か話に出ているように、神話を、例えば俳優が神様になって演じてもどうしたって「な〜んちゃって」になってしまう。かといってただ読んでもつまらない。その点、よこしまの方法なら現代に生きる神話を、絶妙なバランスで描ける気がします。前回出ていたトライフルのアプローチにも僕はとても刺激を受けましたし、本当に企画の狙い通り3者3様の作品になってると思います。誰より僕が早く観たいな(笑)。ちなみに何となく今回は『ライフイズストレンジ』に近い雰囲気になるんじゃないかと予想していますが、どうでしょう?僕はあれ、好きだったんですよね〜。
にへい : 聞こえた気がします(笑)。ジャコウさんが書いて下さった稽古場レポートを参照していただくと分かると思うのですが、とてもよこしまブロッコリーらしいやり方をさらに発展させてってのをカンパニーとしては狙っていますね。でも、ジャコウさんの仰る通り重要なのはバランスです。『ライフイズストレンジ』よりぐっと複雑になってる感じですかね。でもあの作品を好きって言ってもらえるのは嬉しいですね。紛れもなくカンパニーの代表作ですから。いや〜、でもホント、ここまで3者3様なのってあんまりないから僕も楽しみですね。
ここで、片山君、再登場。
片山 : ということはあれですね、双身機関は神話をダンスで、よこしまブロッコリーはあくまでも実存する現在という形なのでしょうか?まだ拝見していないので、非常に気になります。多分どんなお客さんより僕が一番観たいです。申し訳ないんですが、今回の僕の芝居は「神」が出て来ます。デウス・エクス・マキナ(機械からの神)というエウリピデスのギリシャ悲劇でよく使われた手法で、最後に天井から籠に神様が乗って来て登場人物たちに「……であるぞよ」と告げ、都合良く解決へ導く手法があるのですが、それを何か違った形で使えないかなと思い、僕の中では今までと違うような作り方をしています。もちろん僕がゼウス役とか、最後に籠に乗って上から降りて来るとか、そういうことではないですけど(笑)
ジャコウ : やってよ、それ。観たいって(爆笑)。うちも神は出てきます。でも僕じゃないんだな。みんな僕がゼウスをやるんだろうって言うんだけど(笑)、そうじゃなくてゼウス的なものに翻弄されるただの男をやります。泣けるよ(笑)。神は・・ナイショ。
でもギリシャ悲劇の時代にもう機械という言葉があったんだね?どれが該当する単語なんだろう。つくづく奥が深いなあ、ギリシャ。うん、なんかね、片山君の書く戯曲って今までも物語的なところをわざと希薄にしてる部分があったと思うんだよね。物語にすると時間がどんどん流れちゃうじゃないですか。基本追憶だから、流れると困るわけよ。だから舞台上で話はあんまり展開せず、どっちかっていうと同じ時刻の周りをグルグルしてる。今立たされてるこの状況をしつこく描いてた訳だよね?そういう点じゃ、聴く限り今回もぶれてない。一貫してるよね、片山雄一(笑)。
片山 : どうなんでしょうかね。先月の2本立て公演で現在から過去を見る追憶の作品を1本、そして名古屋での現在から未来を見た反復の芝居を1本やって、自分の立ち位置を確認出来たかなとは思っています。ジャコウさんの言う通り、ほぼ同じテーマ(パンドラの箱)のシーンの繰り返しではあるかも知れません。ただ以前よりも少し先の未来を考えています。それはやはり2〜3000年前に書かれた神話や戯曲などを扱えたからではないかと思います。やはり神々も、それを記したギリシャ人も現在の僕らと同じ悩みを抱えてはいるのですが、同じことの繰り返しではなく、DNAの螺旋構造のように少しでも上に伸びるように、少しでも先に進めるようにという気持ちが今は一番強いです。ちなみに初期段階では僕もゼウス役の予定でしたよ(笑)
ジャコウ : 繰り返しになりますが、僕ら現代人はヘシオドスの書いた第五の種族の子孫だと思われてなりません。ここがダメ、そこがダメと言われる度にグサッと胸に・・(笑)。クドクドとゼウスとアメリカを被せてしゃっべてるのは本当に、本質が同じだからなんですよ。でも片山君が言うように、希望が全くない訳ではなく、あれだけ熱狂的にイラク戦争へ突き進んだアメリカ人がオバマを選んで必死に針を振り返そうとしている。僕、彼の就任演説はがんばって生中継最後まで見ましたよ。感動したね。まあ、チェンジのその後は海の向こうもこちらも怪しいんだけど(笑)。人間は決して自己を狂ったままにはしておかない。それが良心というものだ。今はそこを信じるようになりました。だから去年から作風が変わってるはずです。
にへい : 人って強くもあり、脆くもあり、したたかでもある。僕はそう思っています。僕は現在を描くことは過去も未来も描くことだと思っているんです。だから現在、何をしているかがとても大切。僕が現在感じていること、それがとても反映された作品にはなっていると思います。
さて、鼎談をずっと進めてきたわけですけど、語り過ぎると観る楽しみが減ってしまします。あとは劇場でのお楽しみということで鼎談をお開きにしたいと思いますが、お2方ともよろしかったですか?
ジャコウ : うちはネタばれ、平気ですけどね(笑)。でもここまで読んで下さった方に感謝です。ちくさ座でお待ちしています。にへいさん、片山君、お疲れ様でした。次は劇場で!!
片山 : お疲れ様でした。劇場というパンドラの箱の中で3組の競演をお楽しみ下さい。ジャコウさん、にへいさん、よろしくお願いします。
にへい : ジャコウさん、片山くん、お疲れさまでした。それでは皆さん、劇場でお会いしましょう!
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最後まで読んでくださったみなさま、ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか?
よろしければぜひ、会場へもお越しください。
12/24は混み合ってきておりますが、他の日時はまだ余裕がございます。
ご来場、心よりお待ちしております!
パンドラ3実行委員会 一同
「パンドラ3」出演者不定期連載インタビュー、第3弾。最終回です。
第3弾インタビュー 松丸琴子・稲葉みずき(トライフル出演)
インタビュアー にへいたかひろ(よこしまブロッコリー 代表)
今回は、トライフルの稽古場にお邪魔しました。
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にへい : 今日はトライフルの役者、松丸琴子さんと稲葉みずきさんに来ていただいてます。よろしくおねがいします。
松丸 : 稲葉 : よろしくお願いします。
にへい : まず稲葉さんの方からお聞きしたいんですけど、トライフルに入る前はどういう活動をされてたんですか?
稲葉 : 演劇は、高校演劇からなんですけど、最後の年に中部大会まで進んで、次点の賞をいただきまして、それから「ああ、演劇やりたいな」と思いまして。最初は劇団うりんこ研究所に所属しました。その後しばらくフリーで活動してたんですけど、何かオーディションに応募したいと思いまして、最初は「柿喰う客」(東京の劇団)の公演オーディションを受けました。それに合格しまして、三重と東京での公演でご一緒させていただきました。で、その折に、片山さんにお会いできる機会がありまして。その時、トライフルのオーディションのチラシも(公演会場に)置いてあったんです。それで(オーディションに)応募して、まずはスタッフとして参加させていただけることになって。それが、トライフルの公演に関わるようになったきっかけです。
にへい : それは、(トライフル公演)一番最初の?
稲葉 : はい、(2010年)2月です。
にへい :あ、千種セレクションの、
稲葉 : 『地上から110cm』の時の。
にへい : ああ、じゃあそれが出会いだったんだ。
稲葉 : そうです。その後も、オーディションだったり、人のつてだったりでトライフルやオレンヂスタの公演に参加させていただいてます。
にへい : じゃあ今は、トライフルもやりつつ、他の公演にも参加してる、っていう。
稲葉 : はい、そうです。
にへい : じゃあ、演劇漬けな日々(笑)
稲葉 :漬けです(笑)
三人 : (笑)
にへい : 松丸さんの方は、逆にNEVER LOSE 時代からずっと一緒に作品づくりをしてますよね。
松丸 : そうですね。
にへい : 僕が出会った当初、「制作の方」っていうイメージがあったんですけど、今年、東京で役者として8年ぶりに活動再開されて。で、今回も役者として参加されるということなんですけど、
松丸 : はずみがついちゃって(笑)
にへい : (笑)8年ぶりに役者を再開するって、やっぱりすごいエネルギーがいるだろうから、何かきっかけがあったのかなと思うんですけど。
松丸 : 「縁」ですね。菅間馬鈴薯堂(すがまぽてとどう)さんのところに出していただいて。最近・・・ここ一年くらいかな、稽古を見学させていただく機会がありまして、で、ちょこちょこ行くうちに、あまりにも稽古が面白いので、手伝わせてもらおうと思って。で、受付の手伝いをしたりしてるうちに、周りの方たちに「おまえここで復帰しろよぉ」と言われ(笑)。その上、演出家の菅間さんにすごく(私を)薦めてくださる方がいて。どうしようかなと思いつつもすごく嬉しかったし、言われてるうちに、やっぱり「やりたいな」っていう気持ちがむくむく沸いてきて・・・で、片山にも相談したんです。そしたら片山が、「菅間さんになら預けてもいい」と言ってくれて。「じゃあ、お願いします!」ということで、役者復帰となりました。
にへい : (復帰してみて)どうですか?僕も、4年ぶりの舞台っていうのを経験したことがあるんですけど、相当きつかった覚えがあるんで(笑)
松丸 : (笑)きついというか・・・最初、どう声を出すかも忘れていて(笑)。恥ずかしかったので、8年ぶりだと周りにがんがん言ってハードルを下げようと(笑)周囲の方々に甘えさせていただいた感じですねぇ。
にへい : ちなみに、NEVER LOSE時代には役者はされてたんですか?
松丸 : 旗揚げから第3回目までは出てました。第4回目の、(カンパニーとして)軌道に乗るぞっていうくらいの時期から、裏方に。
にへい : 外(裏方)から見てて思うことが、逆にブランクの間に蓄積されて、いい方向に出ることもあるんじゃないですか?
松丸 : そうですね・・・菅間さんが、私のブランクの間の苦労とかをすごく「あなたは、苦労しているからいい」と言ってくださって、ああ、それでいいのかな、って。
にへい : ああ、すごく演出家らしい言葉ですね。その人の身体から滲み出てくるものが欲しかったっていうことでしょうね。
松丸 : ただ、今回はそのことに調子に乗らずにやらないとな、と思ってます(笑)
にへい : じゃあ、ちょっとトライフルについてお聞きしたいと思います。流れでそのまま松丸さんにお聞きしますが、松丸さんはトライフルとNEVER LOSEの両方を役者として体感してると思いますが、演出・片山さんの当時(NEVER LOSE時代)と今の違いみたいなものは感じますか?
松丸 : そうですね・・・・言葉がやわらかくなりました。今でもキツいとは思いますが(笑)
稲葉 : ああ、(長谷川)宏樹さんも言ってました。
松丸 : 前はもっと・・・怖かった、というか、あ、理不尽でしたね(笑)
三人 : (爆笑)
松丸 : まあ、あたしが出会った当初、彼は21歳でしたし。
にへい : ああー!若いうちは自分がこうしたいっていう思いを、ね(笑)。で、今はいろんなことを受け止めて、あらためて伝えることができる、と。なるほど。それって作品にも空気として乗りますよね、きっと。僕の印象でいうと、やわらかいというか、パーソナルな部分をNEVER LOSE時代よりも、トライフルには感じますね。では稲葉さんにお聞きしたいんですけど、稲葉さんは今まで名古屋でいろんな演出家さんの作品に関わってると思いますが、稲葉さんから見た片山さんって、どういう印象ですか?
稲葉 : いやもう、ほんと、すごい人としか言いようがないですね。まず、役者のことを何もかもお見通しなんです。「今、ここ(相手)に(台詞を)当ててないよな」とか、「独りで演ってたよな」とかが、みんな筒抜けなんですね。なので、ああ、この人は間違いない人だなと思って。演劇の知識もたくさん持ってらっしゃるので、もっといろいろ教えてもらいたいと思って、入団しました。
にへい : 役者さんのことをよく見てるっていうことですよね。では、トライフルのメンバーとして、稲葉さんから見たトライフルの魅力ってどんなところですか?
稲葉 : う〜ん・・・魅力ですか・・・
松丸 : あるけど・・・こう・・・言葉にしづらいよね(笑)
稲葉 : う〜ん・・・(片山さんには)名古屋を受け止めつつ、名古屋で演劇を広めようと言うからにはという思いもあってなのか、名古屋について知りたいという片山さんの思いが強くて、どんな文化があるのとか、どんな遊びがあるのとか、名古屋を知ろうとしている感じですね。
にへい : 近い目線で演出と役者が接することができるというか。そういう魅力を今感じてる、と。
稲葉 : はい、感じてます。
にへい : そういうのって、お客さまにも通じるよね。松丸さんから見たトライフルというか、トライフルに置ける片山作品はどうですか?
松丸 : NEVER LOSEは元々、同級生中心で集団を作ったので、年齢が近かった上にみんな主張が強いメンバーだったんですけど(笑)、今のトライフルはメンバーの年齢に幅ができて。その中で、共通点を探しながら作品づくりしてるんですね。で、そこでどうしても埋まらない差があったりして、片山自身も作家・演出家として、どっしりとした覚悟がないと向き合えないことを自覚しているからこそ仕上がってくるものっていうのがありますね。でも片山自身はそんなに変わってなくて、集まってくれてる人の中で、じゃあどう創っていこうかっていうのが片山で。今いる人の魅力をそのまま舞台に乗せるのが彼のやり方なんです。だから、それまで他の舞台であまり注目されたことがない役者さんとかも、片山作品に出演したときに、すごくかっこよく見えたりすることが多々あるんです。
稲葉 : (その人の)違う面を引き出そうとするんです。出来上がったキャラクターを誰にやらせようかな、ではなくて、役者を見て、この人に何をやらせようかなっていうところから始めるんですよ。自分自身も知らなかった面を引き出してくれるんです。
松丸 : 役者はそれに甘えちゃいけないんだけどね(笑)
稲葉 :そうなんですよね(笑)
にへい :なるほど。じゃあ最後に、今回の『神々が存在するのかしないのか、我々には知りようもない』の見どころを、お二人から。
松丸 : ギリシャ神話って言っても、そんなとっつきにくいものにはならないと思うので、肩の力を抜いて楽しめる作品になると思います。楽しみにしていてください。
稲葉 : 私自身も台本を読んでてとても楽しいんですね。集団のつながりが、ギリシャ神話の上に乗っかってきてる作品ですので、神話自身だけでなく、そういう思いを感じてもらえたらなと思います。
にへい : 作品を通して、客席とのコミュニケーションを取れるって素敵ですよね。じゃあ、今日は貴重な稽古時間中にご協力いただいて、ありがとうございました。
松丸・稲葉 : ありがとうございました。
【松丸琴子プロフィール】
松丸琴子 –Kotoko Matsumaru-
1977年、秋田県出身。千葉県で育つ。舞台芸術学院卒業後、マーク義理人情結成に参加。同時期にNEVER LOSEの旗揚げ公演に出演し、第4回目から制作として携わる。2002年に自身のユニットで舞台に立ったのを最後に、以後8年間役者としての活動を休止していたが、2010年9月に菅間馬鈴薯堂『九月の遠い海』於:王子小劇場へ出演、俳優活動を再開した。現在東京在住。
【稲葉みずきプロフィール】
稲葉みずき –Mizuki Inaba-
1986年、愛知県名古屋市出身。劇団うりんこ附属演劇練習所を経て、その後積極的に様々な舞台に出演。出演作品は『すこやか息子』(柿喰う客)、『童話道程スプラッタァ』(オレンヂスタ)、『もうすぐ夏だね、お父さん』(寅組)等。2009年12月のトライフル出演者オーディションワークショップに参加、前回公演『タバコトーク×ドーナツトーク』より正式メンバーとなった。
私が練習室にお邪魔したのは、双身機関の稽古が夕方に終わり、近所の喫茶店でのんびり食事をしてからだった。「最初の1時間は基礎だから、どうぞごゆっくり」という優しい言葉に甘えてのことだったが、果たしてそろりと部屋に入るとまだ基礎練は続いている。双身でもやってる位置取りってやつだ。空間を全員で取り囲み、その中に一人ずつ入っていく。その都度、他人との距離感を図りながら一番落ち着く地点を探り続ける。1巡すると同じことを今度は目を閉じて繰り返す。これをかれこれ1時間以上もしつこくやっているのだ。おそらく俳優たちの神経はミクロの単位まで微分化され、研ぎ澄まされていることだろう。私がよこしまブロッコリーの舞台からいつも感じ取る繊細さは、こんな果てのない地味な作業の上に成り立っているのだ。
基礎練をほとんどやらない劇団も多いし、もっと多いのは基礎が終わるとたちまちゼロにリセットされ、シーン稽古に何も反映されていない劇団だ。これではお金を取るに足る俳優のワザなど培われようもない。その点、よこしまブロッコリーの稽古は時間が切れない。位置取りで現れる距離感・空気感がそのままシーンに持ち込まれる。
たとえばカップルと思しき男女が具体的には判らないが何か極限的な状態にある。その状況は台詞に書かれていないため、俳優たちはそれを体で現わさなければならない。しかも相手がいる。置かれた状況を強く持ちすぎると相手との関係がうまく取れないし、関係を強く取りすぎると今度はその場の緊張感が薄れてしまう。この2つのバランスを取るために向きを様々変えてみたり、台詞の音圧を上げたり下げたり、たった数分のシーンを成立させるのに実に膨大な時間をかけているのだ。しかもただでさえ繊細なこのやり取りが、同じくらいに繊細なもう一組の男1人女2人のやり取りと同時進行している。俳優たちはさぞかし大変だろうが、彼らの体に負荷がかかればかかる程にその場の密度は確実に上がっていく。
こうした繊細さは、この日稽古していたもうひとつの場面でも貫かれている。こちらでは男2人が会社の(?)マドンナの気を引こうとお洒落な、あるいは多少気障な会話を繰り広げる。もちろん台詞に現れないところにメチャクチャ複雑な心理と駆け引きが展開されているので俳優たちはほとんどパニック状態だ。けれど素知らぬ顔でお洒落なイタリアンの話をしなければならない。普段も、そして稽古場でも演出のにへい氏は常に温厚だけれども、やっぱりこの人はサドだ。私はよこしまの俳優諸氏がいつも口にしていることを内心こっそり追認した。
和やかながらも実に緊張感の高い稽古場だったが、聞けば2つのシーンの内、2人は代役だという(11月のトライフル公演出演のため)。これで本役が出揃ったら一体どんなことになるのか?本当に本番が楽しみで仕方がない。
ジャコウネズミのパパ(双身機関代表)
※稽古見学は11月21日(日)、アクテノンにて
本格的に稽古を開始した片山氏。
今回はその稽古場にお邪魔してのトークです。
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『ゼウスとワルツ!』vol.3~ギリシャ神話ってどう?~
にへい : 片山くん、お久しぶり、ジャコウさんとゼウスについて話していたんだけど、ざっくりとでいいんだけど、片山君、ゼウスってどんな印象?
片山 : ゼウスってどんな印象かですか(笑)。ギリシャ神話自体は、いろんな文化とかメーカー名とか商品名とか使われていたので、こんなに関係していたのかというのはあったんですけど、ゼウスについて思ってることは、例えばジャコウさんが話題に振った、とても浮気性とか10人の女性と子供を作ったとか。しかもジャコウさんからの質問はそれについて自分の親父と絡めてどう思うとか、なんて無茶振りなんだろう(笑)って聞いてたんですけど。
にへい : (笑)
片山 : まあ、自分の親父とはやはり結びつかないですね。ゼウスについては、本当に何かをした神様とか全く分からないというか。例えばキリスト教のような一神教の神様だと絶対的な権力を持っていて、人間達の価値の判断基準に神様がなってるんですけど、ギリシャ神話っていうのはあまりに神様が多過ぎて、しかも神様が一応、ギリシャ悲劇やギリシャ喜劇、二千何百年前の昔の戯曲の中では人間達には何かを言うのに、実際の生活の中ではあまり関係がないという風に思えてしまう。
だから、ゼウスと父を絡めるというより、ゼウスが自分の父を倒したりとか母に反乱されたりとかあったということが、そんな神々の家族の痴話げんかに僕らを巻き込まないでくれとしか思えないんですね。
だから、(例えば)ギリシャ悲劇をやるのは、(もちろん簡単ではないですけど)やりやすいんですけど、今回、ギリシャ神話を題材にって考えた時に一番困ったのは、あの、例えばパンドラの話だと、開けてはいけないところをあけたとか、実際2、3行、ギリシャ神話に書いてあるだけじゃないですか。
にへい : 確かにいろいろ調べても、ホント短いんだよね(笑)。
片山 : その時にパンドラが何を言ったのかとか、エピメテウスが何と言ったのかとか、会話の部分がなくて、小説の地の部分、物語のあらすじだけが書いてあるじゃないですか?
にへい : うん、2人は結局、こうなったとかね。
片山 : うん。で、まあ、(パンドラ3を)やるとなってからギリシャ神話を読み始めたので非常に困ったのですね。演劇になり辛い。その、別に物語をずっと語ってもいいんですけど、そうするとなんか世界昔話みたい、ゴーゴンをこう倒しましたとか、アキレスはアキレス腱が弱いとか(笑)。
にへい : プラネタリウムでよく出て来そうな話というか。
片山 : うん、あれは星になりましたとか。そういうことをして一本の話にして何が面白いんだとか(笑)。なので、今も相当困ってるんですけど、ただ、ホメロスとか詩が多いんですよ、詩とかことわざとか、あとソフィストっていう哲学者とか。とにかく議論をしたりとかは同時代の言葉として残ってるので、そういうのをかき集めて。まあ、僕の作品は神々がいるのかどうかそんなことは分からないんだってことがタイトルなんですけど、ギリシャ神話の神々を直接書くのではなくて、私達にとって神とはなんだろうって悩んでる人間達を書こうかなって、今、なんとか四苦八苦しながらやっています。
にへい : うん。でも難しいなと思うのが、当時の人達は神様としてたわけだけど、現代の僕達はそういう意味では遠いところがあるわけじゃん。だから現代からの目線でって感じなのかな?
片山 : う〜ん、現代からだと、ほら、日本の八百万の神も、僕らにとってはあんまり関係ないじゃないですか?メジャーな天照とか月読とかまだその辺は分かるんですけど、私はスサノオを信仰していますとか、八岐大蛇の退治を信じてる人もいないだろうし。何と言うかその、太陽が昇るとか雷が落ちるとかそういう自然神をそのまま、昔は神々の子孫だったり、政治的な意図で俺はゼウスの子孫だぞって人達はアテネとかトロイアに居たわけですけど、それ自体が滅びちゃったので、政治的なこととはかなり分離して、単純に昔、僕達は神様をこういう風に感じていた、自分達が理解出来ないことを神様として認知していたって風に、ギリシャ神話があるからそういう風に感じ取れるってのは楽しいですね。一言で言うならば山川草木全てが神だと、神=GODではないと。
にへい : そういう風に考えてたんだ。でも、今の話で片山君とギリシャ神話の距離感がなんとなく見えてくるなって感じがするんだけど?
片山 : 非常に大変なんですけどね(笑)。ソフィストって詭弁家って、今で言うディベートの技術を教える人達が出てくるんですけど、(例えば)アキレスと亀の話でアキレスは亀を抜けないとか、そういうのの酷いのになると相手が何を言っても言い負かせる。今、そういうシーンをやっていたりして。何と言うか、何をやっていてもホント人間ってダメだなって(笑)。
にへい : まあ、その、ギリシャ神話はみんな異様に人間臭い(笑)。英雄なのか神様なのか分からなくなって来る。
片山 : とても人間臭いですよね。ゼウスの息子のヘラクレスの話で巨人族を神様が倒せないから、十二の英雄譚があるけど、巨大イノシシを捕まえたとか、ライオンを退治したとか、なんか、全部動物捕まえてるだけじゃん(笑)。
にへい : 言葉通りにとっていくとそういう所は確かにあるよね。
片山 : だから、最初に読んだときは本当に面白くなくて。何回も何回も読み返して、あ、そういう話なんだって、物語の中からこれってこういうことなんだって読み解いていく面白さ。
にへい : じゃあ、あれかな、お客さんもそれを追体験していくってことなのかな?
片山 : そうですね、ただギリシャ悲劇じゃないので論理的には書いてないんですけど、僕は知らない童謡だったんですけど「一番はじめは一宮♪」とかそういうのを急に入れたりして、いつも戯曲は論理性や整合性を重視して書くんですけど、名古屋の俳優達と一緒に神話からもらったイメージをそのまま形にしていこうってのをやっています。
にへい : イメージをそのまま形に。どんなイメージになるんだろう。楽しみです。片山君、今日は時間を作ってくれてありがとうね!
つづく
名古屋に帰って来た片山君。しかし構成台本の執筆中のため、
再びジャコウ、にへいでゼウストークの続き。
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『ゼウスとワルツ!』vol.2~欲深い神様?~
ジャコウ:前回、にへいさんと話してて、「ゼウスって随分ひどい奴だけど、まあうちの親父もそんなもんだよね?」ってことになって(笑)。僕はどうも生きた父親ってのがピンとこないので蒸し返すけど、にへいさんちはどんなですか?あと片山君も、2月のトライフルvol.1では結構赤裸々なお父さんの話が出ててたから、この辺り何か思うことがあるんじゃない?って思ってるんですよね。
にへい:僕の父はとても温厚な人間なので、個人的には例えば部活の顧問とか、子分の多い政治家とか、そういった存在の方がゼウスな要素を感じてしまいます。先週、巨人の星の星一徹をゼウスを感じる存在としてあげましたが、父親や父性=ゼウスという感覚ではなくて、強さや力=ゼウスって感覚ですね。それはひょっとしてら、僕がゼウスのいろんな面の中で欲深い部分を一番強く感じているからかもしれません。というかゼウスって誰から見ても強欲ですよね?(笑)で、その欲についても、例えば強さや力があったから欲が生まれたのか、欲があったから力や強さを手にいれたのか、そうやって考えると面白いんですよね。まあ、それについてはそんな単純な話ではないと思いますが。
ジャコウ:そうか、親父=カミナリって先入観が僕の中にはあるかも知れない。何せ実体がないのでイメージがひとり立ちしちゃうのかも。多分、「地震、カミナリ、火事、親父」なんて言葉を共有してた最後の世代ですね、僕は。こんなフレーズ聞いたことあります?(笑)で、ゼウスですが、彼の権力を決定付けているのは巨人族との戦争を勝利に導いたことと、それで感謝の印にもらった最終兵器なんですよね。これが象徴的です。行きがかり上、どうしたって尊大になると思うんです。事の始めは流民なのに経済と戦争が強くなるにつれて偉そうになっていったアメリカと一緒ですよ。
僕はゼウスの強欲とアメリカの上から目線は同じものだと思っています。ギリシャ人とアメリカ人に殺されそうだな(笑)。
にへい:「地震、カミナリ、火事、親父」もちろん知ってますよ〜!確かにゼウスは親父に例えると古風なタイプですね。でも、某国の話じゃないですけど、何かの力を背景にしてってのは、人間
社会のずーっと変わらない構図。いや、命あるものは全てそうかもしれないですね、例えば猿の群れのボスは一番強い奴がなるように。だけど力を相手にするのは困るけど、守られる側からすると頼りになるもの。ただあまりに大き過ぎる力はどちらの側からしてもやっかいですよね。
ジャコウ:そうなんですよね。だから日本人の賢いところは天皇
陛下を決して親父にはしなかった(笑)。その後も関白やら将軍やらがわらわら出てきますが、うまいこと力を分散させてますよね。そういえばギリシャに行ったときの印象を思い出しました。アテネが首都ってことになっていて確かに政治や経済の中心なんだけど、実はあんまり尊敬されてない気がする。パルテノン神殿なんてでかいだけだし。あ、また殺されそう(笑)。宗教的、精神的な中心は何といっても神託が行われていたデルフィです。世界のへそなんて呼ばれてね。行きましたけど、それまで無神論者だったのがあまりのオーラに神を信じましたもん(笑)。ギリシャで舞台創ってんだから、最初に思い出せよって話ですけどね(笑)。観光客なんかも、とりあえず空港がアテネにあるから一回は降り立つけど、直ぐに島とか行っちゃうらしいです。その辺がね、やっぱり某国あたりは歴史が短いからデルフィみたいな場所を創れないって気がしますね。ソ連なんかもそう。最初から宗教を否定して人工的に行くもんだから、却って逃げ場が無くなっちゃう。
にへい:無神論者だけど、つい神様いるかもって思ってしまう場所ってありますよね。最近流行のパワースポットじゃないですけど(笑)。人は思想も含めていろんな拠り所を作りますが、確かに象徴する場所や建物などがないと残りにくいですよね。でも、そのいろんな拠り所ってのが人の本質の一つの側面というか。まさに、ありとあらゆることに神様を作っちゃう多神教ですよね。その曖昧さやゆるやかさみたいなものって誰の中にでもあるんだけど、生真面目さもあって、こうあらねばならないってなって思ってしまう。どちらに傾いても行き過ぎれば崩れていく。(もちろん中には、崩れたのに気づかずに突き抜けて行く人もいるんですけどね。)やっぱり自分を保つために拠り所を求めてしまう。人は何を選んで来たか?なんか世界史の話に脱線してきてしまいましたね。さて、そろそろ片山君がギリシャ神話についてどう思ってるか気になりますよね。どうましょう、無理矢理拉致して話を聞いてこうかな(笑)。
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Vol.3に続く。次回こそは片山登場!?どうぞお楽しみに。
「パンドラ3」出演者不定期連載インタビュー、第2弾です。
第2弾インタビュー おぐりまさこ(よこしまブロッコリー出演)
インタビュアー ジャコウネズミのパパ(双身機関 代表)
今回は、双身機関の稽古後、とある居酒屋にて、ざっくばらんなインタビューでした。
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ジャコウ :あ、どうも、おつかれさまです。
おぐり : おつかれさまです。
ジャコウ : えっとですね、最初ありきたりな質問で申し訳ないんですけども、この道に入られたきっかけを。
おぐり : 演劇を始めたのはですね・・・実は最初はあまり、演劇には興味がなかったんですね。元々は映像に興味があって、で、今、タレント事務所に所属してるんですけど、まあ、だいぶトシとってから始めたわけなんですけど(笑)。で、そこに入ったのは、映像演技の世界に興味があってなんですけどね。
ジャコウ : なんか最初はカタギのサラリーマンだったってお聞きしたんですけど(笑)
おぐり : あ、そうなんです。10年くらいは会社員として働いてまして。30過ぎて、ちょっと身体に異変があって、入院しまして。で、手術したときに、あ、このままやりたいことやらずに死んだら後悔するなーって、「そうだ、京○行こう」じゃないですけど、
ジャコウ : (笑)
おぐり : で、まあ、「そうだ、演技の勉強しよう」って感じで始めたのが(きっかけです)。
ジャコウ : じゃあ元々、役者稼業には興味があって、
おぐり : そうですね。「何かの世界をつくる」ってことに関して興味があったんですけど。でもなんていうか、いろいろ覚悟のできないままにそこまで(30歳まで)きちゃったって感じですね。
ジャコウ : で、今も映像の仕事をしながら、舞台活動を。
おぐり : そうですね、今はどっちかっていうと舞台にはまっちゃってます。
ジャコウ : 初舞台からよこしま(ブロッコリー)で?
おぐり : いえ、よこしまではなく(所属)事務所のプロデュース公演が初舞台で。で、そこで最初に出会った演出家がにへいさん(よこしまブロッコリー代表・作・演出)です。その前に実はよこしまの舞台を観まして、それまでの演劇のイメージが変わって・・・・
ジャコウ : ああ、演劇もおもしろいかも、って?
おぐり : そうですね、あたしが思ってた演劇のイメージって、演劇の中のほんの一部分だったんだって気づいて。
ジャコウ : たとえば、その「おもしろさ」って、一言でいうのは難しいかもしれないけど、具体的にいうとするとどんな。
おぐり : えーっと・・・・なんだろな・・・・あたしが興味があることって、「人の内側で何が動いてるのか」ってことで、それまであたしが持ってた演劇のイメージって、派手な動きで大きな声で、っていうのだったんですけど(笑)。たとえば、パフォーマンスでも、台詞がなくても、派手な動きでも、結局その人の身体からにじみ出てくるものを見せるってことは、映像だとそれをアップで抜きで撮ったりするものが、舞台だと視線をひきつけるってことに置き換わるだけで・・・それをどんな形(声・動き)で表現するかっていう違いなんだって気づいて。で、舞台だとそれをより近くでリアルに感じられるってところに惹かれたのかな、と。で、それを初めて思ったのが、最初に観たよこしまの舞台でした。
ジャコウ : それまでつくりものだと思ってたものが、意外と演劇ってリアルじゃないかと感じたと。
おぐり : そうですね、うん、そういう感じです。
ジャコウ : なるほど、おもしろいですね。
おぐり : なんというか、衝動的に(この世界へ)。
ジャコウ : 衝動がないと踏み込めないですもんね。で、よこしまに入られて。結構長いですよね?
おぐり : そうですね、気づいたらもう10年ぐらいになっちゃいましたね。
ジャコウ : 僕も初めてよこしまを観たのがずいぶん前になるんですけど、結構メンバーの変遷があるじゃないですか。
おぐり : ああ、そうですねぇ。
ジャコウ : 僕が観た中で、初めからずっと今でも続けてるのっておぐりさんだけじゃないですか(笑)
おぐり : (笑)はい、でも厳密にいうと役者として活動を続けてる中で一番古いのは澤村(一間)くんなんですけど、途中抜けた時期とかがあって、それを差し引くと、まあ若干あたしのが長いかなって感じですね。
ジャコウ : その間、いろいろ作風とかも変わったりしてると思うんですけど、そのあたりってどんな風に感じてらっしゃいますか?
おぐり : う〜ん、作風。今はどんな風に(周りに)映ってるかわからないんですけど、以前はにへいさんがいろんなこと試して、探ってるような感じがしてて。その時いるメンバーを通して、にへいさんがその時感じてる「リアル」を・・・舞台にする・・・その方法を今でも毎回、いろいろ探ってるイメージはありますね。
ジャコウ : メンバーについてはどうですか?以前は先輩役者たちに囲まれてって感じだったと思いますが、今は引っ張る側の立場になってきてると思いますが。
おぐり : あぁ〜〜。引っ張れてたらいいんですけどねぇ(笑)
ジャコウ : いやいやいや(笑)
おぐり : まぁ、立場が変わってきてないといえば嘘になりますけど、う〜ん、なんだろな、自分の立ち位置が変わってきたからなのかわからないですけど、なんだろう、集団の色みたいなものは変わってきてる気はします。
ジャコウ : 僕の勝手なイメージなんですけど、ここ数年、(よこしま作品の)「リアル」の強度がどんどん上がってきてる気がするんですよね。
おぐり : ああ〜。なるほど。
ジャコウ : 昔は「リアル」と同時にいろいろ演劇的な仕掛けを試してる感じがあったんですけど、
おぐり: あ、そうですね。
ジャコウ : ほら、今年僕がにへいさんにムチャ振りしたじゃないですか(笑)
おぐり : ああー(笑)
ジャコウ : まあ、要はサラ・ケイン(あいちトリエンナーレ2010共同事業)なんですけどね。僕がサラ・ケインをにへいさんにぶつけようと思ったのも、実はそのリアルがすごく強くなってきたからで、名古屋でサラ・ケインに向き合えるのはにへいさんだ、と思ったんですよね。
おぐり : 本人が聞いたらきっとすごく喜びますねー。(目の前で写真撮ってますけど)
ジャコウ : (笑)まあ機会があったらちらっと言っておいてください
三人 : (笑)
ジャコウ : それで、どうでした、サラ・ケインやってみて?
おぐり : サラ・ケインはですね、あたしの中でもすごく衝撃的で。正直、(出演の)お話いただくまでは知らなかった作家さんでしたし、自分がそういうものを演じるっていう想像もしてなかったので。で、まあ、あたしは自分が蓄積したの経験の中で何ができるのか、そういうところから探っていったんですけど。違う刺激ももらうんですけど、でも実は、今まで自分が演ってきたことと、そんなにギャップというものは感じなかったんですね。それをどう放出する、どう溜め込んでどう出力するかっていう形が違うだけで。だから、どうしよう、わかんないって感じにはならなかったんです。自分の中で試したいこともいろいろあって、それをこっそり試したりとかして(笑)
ジャコウ :試したかったこと。差し支えなければ。
おぐり : たとえば、よこしまではすごくリアルな「日常」の体を使って演じてるんですけど、それを敢えて抜いて、感じたそのリアルだけを身体の中に溜めていったらいったらどうなるんだろうかとか。そういう意味では、いつもより自由にやらせてもらってたかもしれません。
ジャコウ : なるほど。ところで、あの戯曲(『4時48分サイコシス』・『渇望』)、初めて読んだ時、どう思いました?
おぐり : やっぱり衝撃的でしたし、書かれてることは赤裸々なんですけど、でも、ひょっとしたら、あそこまでは大きくないとしても、自分の中にもそういう思いってあるなって気がして。でもそれをああいう(戯曲という)形で外へ出してしまう、出さずにいられなかった人って、いったいどういう人なんだろうって、すごく考えましたね。
ジャコウ : で、まあ、サラ・ケインが終わって今回「パンドラ3」にも関わってもらってますが、いかがですか?
おぐり : にへいさんもサラ・ケインから何らかの影響を受けてるのかもしれませんが・・・あたしは今回、よこしまで演じる役どころに、サラ・ケインで感じたこととか得たもとか感覚を、ちょっと引用しちゃってる感じはしますね。今演じてる役柄は、思いがいろんな方向に、いろんな大きさで飛んでいってるような役なので。
ジャコウ : ああ、それはムチャ振りをした張本人としては嬉しいですねぇ。とても楽しみです。
おぐり : サラ・ケインと違ってるのは、今回演じる役は言葉を発することが少ないので、その分内側にいろんなものを溜め込んでないと、ただそこにあるもののようになってしまうので、そういう難しさはありますね。
ジャコウ : どちらも根底では何か感じてるんだけど、それを表に現す形が対照的?
おぐり : そうです、そんな感じです。
ジャコウ : ああ、めちゃくちゃ楽しみですねぇ。
おぐり : うわ、ちょっとなんか、自分でハードルを上げてしまった(笑)
ジャコウ : いやいやいや(笑)で、また唐突に話題を変えるんですけど、今後やってみたいこととか。
おぐり : なんだか今、自分の中で「表現」ってことに対してやってみたいことの幅が広がってきていて、たとえば普段やってることと全く違う身体表現とかもそうですし、今あたしは(チラシなどの)宣伝美術をやってるんですけど、今回は舞台美術も自分で創っているので、いろいろ多角的な形で作品づくりに関わっていきたいし・・・役者としては、なんだろう、知らないことが世の中にはまだまだたくさんあるので、そういうことに触れる機会があればなあっていう気がしてます。
ジャコウ : なるほど。今後の活躍を、陰ながら楽しみに拝見していこうと思います。
おぐり : ありがとうございます。
ジャコウ : まずは「パンドラ3が」もうすぐですね。がんばりましょう。
おぐり : はい、がんばります!
ジャコウ : 今日はありがとうございました。
おぐり : ありがとうございました。
【おぐりまさこプロフィール】
2002年より、よこしまブロッコリーに所属、舞台活動開始。
studio macoの名で宣伝美術・映像作品など2次元的表現活動もする傍ら、
個人ユニット「空中空地」では作・演出もするなど、多角的な創作活動をしている。
ブリッジプロモーション所属タレント。
<主な出演作品>
あいちトリエンナーレ共同事業『4時48分サイコシス/渇望』
よこしまブロッコリー 『ライフ・イズ・ストレンジ』など2003年以降ほぼ全作
ショートストーリーなごや第1回大賞作映画化『カヲリの椅子』
その他TVCM・TVドラマなど多数出演
■個人HP
http://www.studiomaco.net/